変わる建築基準!2025年建築物省エネ法改正で 押さえておくべき「省エネ基準」の内容

2025年に施行される建築物省エネ法の改正によって、私たちの生活やビジネスにどのような変化が訪れるのでしょうか。この改正では、建築物に求められる省エネルギー基準が大幅に引き上げられ、持続可能な未来に向けた重要な一歩となります。この記事では、2025年の省エネ基準の詳細を徹底解説します。特にエネルギー効率の向上や再生可能エネルギーの導入促進など、法改正がもたらす具体的な変更点とその背景に触れ、今後の備えに役立つ情報を提供します。

.2025年建築物省エネ法改正の背景

法律制定の背景には、建築物分野が日本のエネルギー消費量の約3割、木材需要では約4割を占めている事情があります。2050年カーボンニュートラル、2030年度温室効果ガス46%排出削減(2013年度比)の実現に向けては、建築物分野における取組が急務です。

「出典:住宅:令和4年度改正建築物省エネ法の概要 – 国土交通省 (mlit.go.jp)

新築建築物の省エネ基準適合率は2022年度の住宅で、約85%でした。法改正でこれをさらに引き上げる目的があります。

2.2025年省エネ基準の概要

2025年4月施行の改正建築物省エネ法のポイントは以下の3点です。

  1. 基準適合義務の対象が、小規模非住宅、住宅にも拡大される。ただし、エネルギー消費性能に及ぼす影響が少ないものとして、政令で定める規模(10㎡を想定)以下のものを除く
  2. 増改築を行う場合の省エネ基準適合を求める範囲を見直す。これまでは増改築後の建築物の全体が対象だったが、改正後は省エネ基準適合を求められるのは増改築を行う部分のみになる。    増改築には、修繕・模様替え(いわゆるリフォーム)は含まない。
  3. 届出義務については基準適合義務の拡大に伴い、廃止。

3.適用開始時期

2025年4月以降に工事に着手するものから適用されます。

このため、2025年4月以降に工事着手が見込まれる場合は、法施工前から省エネ基準に適合した設計としておくことが必要です。さらに、2030年にはZEH水準の省エネ住宅が新築住宅の基準になります。

※ZEH(ゼッチ)(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)とは                 「外皮の断熱性能等を大幅に向上させるとともに、高効率な設備システムの導入により、室内環境の質を維持しつつ大幅な省エネルギーを実現した上で、再生可能エネルギーを導入することにより、年間の一次エネルギー消費量の収支がゼロとすることを目指した住宅」です。

4.適合性判定の手続き・審査の変更点

 法改正で、適合義務対象がすべての建築物に拡大されることから、対象件数が大幅に増加し、申請側・審査側ともに負担が重くなります。さらに、省エネ基準には計算によらず基準への適合性を確認できる「仕様基準」が定められていることなども踏まえて、手続き・審査が簡素かつ合理的なものとなる予定です。

5.「省エネ基準」の内容

ここまで、法改正の概要をみてきました。この新基準の導入は、各家庭でのエネルギー効率の向上を目指しており、居住者の快適さを損なわずにエネルギー消費を削減することが期待されています。

省エネ基準に適合させるためには「断熱性能等級4」、「一次エネルギー消費量等級4以上」の取得が必要です。
ポイントは下記2点です。

🏠住まいの熱を快適にコントロールできること! 屋根・外壁・窓などの断熱の性能に関する基準があります。(外皮性能)

🏠住まいのエネルギーを賢く使えること! 冷暖房、換気、給湯、照明など住宅で使うエネルギー消費量に関する基準があります。         (一次エネルギー消費量)化石燃料や太陽光など、自然から得られるエネルギーを変換・加工することで電気・ガスなどの二次エネルギーが得られます。
家庭では二次エネルギーが多く使われますが、計算単位がそれぞれ違うため一次エネルギー消費量という単位に統一して、エネルギーの消費量が示されます。

つぎに、省エネ基準を達成するための内容を詳しくみていきます。

5-1建物の断熱性能の強化

建物の断熱性能の強化は、省エネ基準において最も重要なポイントの一つです。具体的には、断熱材の厚みや材質の基準が厳格化されています。これにより、冬季の暖房コストや夏期の冷房コストの削減が期待されます。

住宅部門の断熱性能を向上させるために、使用される断熱材の基準が強化されます。断熱材の選定に際しては、建物の気候区分に応じた適切な材質と厚みを選ぶことが重要です。例えば、北海道の新築住宅において、断熱材の厚みを50mmから100mmに増加させた場合、光熱費の大幅な削減が可能です。   これにより家庭のエネルギー消費も削減できます。

このように、各地域の気候に応じた適切な断熱材の選定が重要であり、これに対応するための技術研修も進められています。

エネルギー効率の改善は住民の健康にも寄与し、ヒートショックのリスクを低減するため、積極的に対応することが推奨されています。

5-2 設備機器の省エネルギー化

設備機器の省エネルギー化には、照明器具のLED化や高性能エアコンの導入が含まれます。     これにより、電力消費量が大幅に削減され、CO2排出量の削減にも繋がります。環境省の資料によれば、LED化は消費電力を約50%削減し、照明の寿命を3倍に延ばす効果があります。

例えば、250m²のオフィスで全ての照明をLEDに変更した場合、年間で約20万円の電気代削減が可能です。結果、照明エネルギーの消費を50%削減できます。

5-3 再生可能エネルギーの導入促進

再生可能エネルギーの導入促進も、2025年の建築物省エネ法改正の大きな特徴です。特に太陽光発電の義務化が注目されています。

義務化の対象となる建物には住宅も含まれますが、個人(個別の建物ごと)への義務づけではなく、年間2万平方メートル以上の建物を建築する大手事業者が対象となる見込みです。

5-3-1 太陽光発電の義務化

新築または大規模改築時の建物には、一定規模以上のものに対して太陽光発電システムの設置が義務付けられます。この措置により、再生可能エネルギーの比率が高まり、建物からの電力自給率が向上することが期待されています。太陽光パネルを設置することで、年間エネルギーコストの最大20%削減が可能とされています。

太陽光発電システムの導入に際しては、設置場所の選定が重要です。屋根の向きや角度に応じてパネルの配置を工夫することで、効率的な発電が可能になります。設備の初期費用はあるものの、10年で約200万円分の電気代が節約できるため、長期的には非常に経済的です。

6. 非住宅部門における省エネ基準

産業や商業施設などの非住宅部門においても、新たな基準が設定されています。これにより、日本全体のエネルギー効率が大幅に向上し、地球温暖化防止に貢献すると考えられています。

6-1 空調・照明設備の効率化

非住宅部門では、特に空調と照明設備の効率化が求められています。例えば、大型商業施設では、省エネ型の中央管理システムやLED照明への全面的な切り替えが推進されています。これにより、電力消費の最大25%削減、運用コストの削減と同時に環境負荷の低減が期待されています。さらに、空調の自動制御システムを導入することにより、使用状況に応じた最適化が可能になります。

6-2ビルエネルギー管理システムの導入

エネルギーのリアルタイム管理を可能にするため、多くの大規模施設でビルエネルギー管理システム(BEMS)の導入が推奨されています。このシステムにより、エネルギー消費をモニタリングし、効率的なエネルギー利用が可能になります。設備メンテナンスの効率化や省エネ戦略の立案においても有用です。

カテゴリー基準の主な内容導入のメリット
住宅部門強化された断熱材、高効率設備の導入エネルギー消費の削減、住環境の高度化
非住宅部門空調・照明の効率化、BEMSの導入運用コスト削減、環境負荷低減

7. まとめ

2025年の建築物省エネ法改正は、持続可能な社会の実現に向けた重要な一歩となるでしょう。この改正により、エネルギー効率の向上や再生可能エネルギーの導入が求められ、環境へポジティブな影響が期待されます。しかし、建設コストの増加や技術開発の必要性など、企業や消費者には課題も避けられません。業界全体がこの変化に適応し、技術研修や人材育成を進めることで、新しい基準を機会として捉えることが重要です。

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有限会社 芝山建築設計事務所
芝山 卓也

大学卒業後、3つの設計事務所を経験。
様々な設計の経験を重ね、工藤和子と2014年shiba.建築設計事務所を設立。
小さい頃から、建築士だった父親の真摯な姿勢、地域の福祉に尽力した祖母の精神を見て育ちました。二人の想いを引き継ぎ、誰一人取り残さない社会の実現のため、挑戦していきます。